青空の機縁
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今日こそ自分は死ぬのだ、と少年は路地の隅に、ぼろきれに包まって横たわりながらそう思っていた。もう何日食べ物を口にしていないだろう。水だけで誤魔化してきた体にも限界が来た。この街の人間も少年の動きに敏感になってきて、そうやすやすと食べ物を盗ませてくれないようになってしまった。ただでさえこの街も貧しいのだ。こうなる前に、この街を出る決心を固めるべきだったのかもしれない。親も兄弟もなく、名前もない少年はぼんやりと空を眺めた。
あぁ、何だ。今日はやけに空が青いじゃあないか。
こんな日に死ぬのなら悪くない、と少年は思った。がりがりに痩せた体も、もう食べるためだけに酷使されることはないだろう。ひとりで生きていくのも疲れてしまった。捨てられた赤子を育てた男には犬や家畜のように扱われ、結局名前ももらえなかった。あの男ももう死んだ。
死んだらあの男と同じところへ行くのだろうか。
いつも酒を飲んで、少年を蹴り、殴り、そうして血を流す少年を笑っていたあの男と。そう考えた途端、急に少年は死にたくない、と思った。あんな男と同じ場所へは絶対に行きたくない。
少年は手を握り締めた。骨と皮だけの指が緩く握られる。それ以上は力が入らなかった。悔しくて唇を噛んだ。その唇も乾いていて、少年の口からは簡単に血が出た。死にたくない。こんなところでひとり死にたくはない。今までだって良いことなんてひとつもなかったのに、こんなひもじい想いと一緒に死ぬなんてあんまりだった。
「……お前、ひとりか?」
流す涙もなく、ただ死を待つだけだった少年の上で急に青い空が翳って、少年と空の間に覗き込むように人の顔が割って入ってきた。それはとても大きな人で、くすんだ青色のマントを羽織って、無精髭を生やした男の顔だった。街では見たことのない顔だ。
「答えられねぇのか?」
少年はその言葉に怒った。手を緩く握るだけの力しか残っていないのだ。声を出すことも、首を振ることだってできない。見て分からないのだろうか。自分は死にかけているのだ。助ける気がないのなら放っておいて欲しかった。どうせ街の人間は誰も少年を助けないだろう。盗みを繰り返しながら人の家の軒先で生きてきたような子供だ。
「……その目、悪くない。来いよ、たらふく、とは言えねぇが食べさせてやる」
そう言うと勝手に男は少年の体をひょいと持ち上げた。少年はまだ怒っていたけれど、背と膝裏を支える男の手はとても大きくて、もとより抵抗する力もない少年はぐったりと男にもたれてそのままどこかに連れて行かれた。
気付くと目の前にパンと果実を絞った飲み物、それに肉と野菜が並べられていて、少年の鼻がそれらの匂いを捕らえた。少年の中に何かがムクムクと膨らんで、少年はそのエネルギーで腕を伸ばした。すると骨のような手がパンを掴んだ。少年はそれを夢中で口に運んだ。口に詰め込んだパンに喉が詰まりそうになって、少年は次に杯に入ったジュースを手にした。それでパンを胃に流し込む。すべて手で掴んで、腹に詰め込めるだけ詰め込んだ。これで死なずに済むと思った。あの男と同じところへは、まだ行く必要がなくなったと。
そして出されたものをすべて食いきると、少年はようやく自分がどういう状態なのか、ということを考えることができた。砂で汚れた腕で口元を拭い、視線を上げると、何故か自分を挟んで二人の男が睨み合っている姿が目に映った。いや、剣呑な雰囲気を醸し出しているのは一人だけだ。その男は痩せていて、背は低くないが巨人でもない。高い鼻と、鋭い目。対している男は、どうやら少年をここまで連れてきた男のようだった。痩せた男よりもさらに背が高く、くすんだ色のマントを着ている。筋肉質で、無精髭を生やしていた。短い金色の髪は手入れなどされていないようでそれぞれ違う方向を向いて固まっている。
やがて睨み合っているだけの沈黙が破られた。痩せたほうの男が、食事の終わった少年をぎっと睨んで叫んだのだ。
「今日という今日は我慢できないぞ、エリオ! 道に落ちているものを勝手に持ってくるなと何度言ったら分かる!」
痩せた男ははっきりと少年を指差して言った。それでどうやら男達が睨みあっていた原因は自分らしい、と少年は思った。
「しゃあないだろ、拾ってくれって顔をしてたんだ」
困りきった声で言ったのは少年を連れてきた男だ。少年は黙っていた。いきなり連れてこられて、食べ物を与えてくれたのは感謝するが、それで喧嘩になるなんて。なんにせよ、この喧嘩は自分のせいではない。拾ってくれという顔をした覚えもなかったから、少年は誰にも気付かれないように肩を竦めた。
「そんなものは錯覚だ! 無視しろ! 拾ってきても自分では面倒を見きれんくせに! どうせ拾ってくるならもっと使いようのあるものを拾ってこい!」
酷い言われようだったが、それでも少年は黙っていた。痩せた男の言い分はもっともだったからだ。ぼろきれに包まって死にそうになっていた餓鬼を拾ってきて、何の役に立つだろう。少年は助かったが、それで彼らが得る利益はない。仕方がないのだ、と少年は思った。自分は孤児で、泥棒で、子供で、死にかけの貧乏人だ。誰にも必要とされない。死ねば死体が腐る前に川に投げ捨てられる運命の人間以下のモノなのだ。
少年は彼らの隙を見てコッソリとここを抜け出そう、と思った。よく見てみるとここはテントの中で、大きな男に遮られて見えないけれど、奥にも数人いるようだ。大勢の目を盗んで逃げ出すことは簡単ではないが、このままここにいても、食事の見返りを要求されるだけだろう。少年がそんなことを考えていると、無精髭の巨人が少年の前に膝を折って、少年の顔を覗き込んで言った。
「使えるかもしんねぇじゃあねぇかよ。なぁ、餓鬼。お前なんかひとつくらいは得意なもんがあるだろ?」
思ったよりも大きな顔が目の前に来た。少年はそれだけで逃げ腰になったけれど、よく考えたら今まで死にかけて動けない状態だったのだ。一回食事をもらったからといって、手足は思うように動かない。逃げることはあきらめるしかないだろうか。少年はとにかく時間を稼ぐためにも、目の前で自分の顔を覗き込んでいる男の質問に答えようと思った。
しかし自分にできることで、得意だといえるものはそんなにない。そんなに、どころかひとつしかないではないか。
「財布……スレるよ」
少年は仕方なくその特技を挙げてみた。案の定、少年の前に座り込む男の後ろで、痩せた男の方はこの言葉に良い顔をしなかった。
「おぉ、そりゃすげ……」
本気で感心の声を上げようとした大男の背後から、痩せた男は冷たく言い放った。
「捨ててこい」
当然そうなるよな、と少年は思った。ここがどういうところなのかは分からないけれど、盗人を歓迎してくれるような場所ではないだろう。
「そんな冷たいこと言うなよ、ツェーリン。まだ餓鬼だし、これから育てられるだろ?」
痩せた男の冷たい言葉には別に怒りもしなかったが、自分を庇ってくれている様子の大男の言葉に少年はむっとした。確かにまだ餓鬼だが、それを言われて嬉しい餓鬼はいないのだ。それは庇われているという事実を無視できるくらいに腹の立つ言葉だった。しかし懸命なことに、少年は黙っていた。大人は面倒だ。話に口を出しただけで烈火のごとく怒り出して、少年を殴る。もし今そんな状況になったら、大男の一発だけで少年はぎりぎりで逃れた死へ直行することになるだろう。
「育てるのに何が必要か分かるか? 馬鹿、エリオ」
痩せた男が大男に向かってそう言った。どうやら大男の名前はエリオというらしい。そして先ほどの大男の言葉を考えると、痩せた男はツェーリンという名前なのだ。エリオという巨人はツェーリンの言葉に少しだけ考えて――本当は考えるふりをしただけなのかもしれない――こう結論した。
「愛情か?」
少年の目に、ツェーリンの口元が引きつる様子が映った。それは少年が盗みをして捕まったとき、言い訳として生意気な口をきくと大人が良く見せた表情だ。そうすると次に何が来るのか大体の察しがついて、少年は咄嗟に両耳を手で塞いだ。
「金だ!」
予想通りだった。しかし耳を塞いでもツェーリンの声は少年の耳に届いた。死に掛けていた身には辛い声の響きだ。少年はしばらく頭がぐらぐら揺れていた。そして少年と同じように咄嗟に耳を塞いでいたエリオに向かって、ツェーリンは続けた。
「お前は金の計算もできないくせに、何の考えもなしにそうやって余計なものを拾ってきて……。金を工面するのは誰だと思っているんだ?」
あぁ、どこも金の問題が一番深刻なのだな、と少年は揺れる頭で妙に現実的に考えた。
「金は稼げば良いだろ。仕事がないわけじゃあねぇんだしよ」
少年よりもよほど子供のようにして、エリオは頬を膨らませた。大男がやって可愛い仕草ではないが、どこか憎めない愛嬌がある。だが、そう感じたのはきっと少年だけだったのだろう。ツェーリンの表情は相変わらず厳しいままだ。
「金は稼げばそれで終わりじゃあない。ちゃんと計算して管理することが必要なんだ。それをやっているのは私で、私のおかげで隊の全員に食い物がいくんだ」
「じゃあ、あと一人分頼む」
鼻先にツェーリンの長細い指を突きつけられながら、いけしゃあしゃあとエリオが言ってのけた。少年はぽかんと口を開ける。少年だって怒られるのは慣れているけれど、エリオのように振舞うことはできない。反省したふりをしてみせ、大人の怒りが通り過ぎるのを待つだけだ。エリオはツェーリンの怒りの間を、自ら走って通り抜けているように見えた。
その時少年が口を開けている奥で、静かな忍び笑いがもれた。あまり広くないテントは明かりがなくて、奥は暗くて少年には見えない。目を細めて暗闇に目を慣らそうとすると、確かに奥には誰かが座っている。悠然と足を組んで座っているその人の脇に、もうひとり人が立っている。そこまで見ると、今まで烈火の怒りをエリオに向けていたツェーリンが、テントの奥へ向かって憮然とした口調で呼びかけた。
「……何かおかしいですか? 頭領」
カシラ、というのが奥の人間の名前だろうか。ツェーリンの言葉にそのカシラは手を振って答えた。しかしどうもまだ笑っているようだ。
「……いや」
若い、低く落ち着いた声が奥から聞こえた。ただその声はやはり笑いを含んでいて、ツェーリンがそれに気付いて渋い顔をした。エリオはそんなツェーリンを見てニヤニヤと締りのない顔をしている。ツェーリンはエリオをぎっと睨みつけてそのニヤニヤ顔を引っ込ませると、今度はその厳しい目を少年に向けた。
「お前、名前は?」
ツェーリンの問いに、少年は肩を竦めた。
「ないよ。くそ餓鬼って呼ばれてた」
それはあの街でも、そしてもうずっと前に死んだあの男にもそう呼ばれていたのだ。名前があったところで、まともに呼んでくれる人もいなかったであろう少年の生には、くそ餓鬼という言葉が一番似合っていたのかもしれない。それにくそ餓鬼という呼び名で不便だと感じたことはない。少年は文字も書けないし、読むこともできない。名前を書かなければならない状況に陥ったこともないのだ。きっと名前は、その他大勢から自分を確立するためのツールなのだろうが、少年は一生、小さな町でくそ餓鬼と呼ばれるその他大勢で、いつか死ぬのだ。少なくとももう少し先のことだったが。
少年の答えはまたツェーリンの気に召さなかったようだ。ツェーリンは苦虫を噛み潰したような顔をした。先ほどから怒ったり渋い顔をしたり、その間ずっと眉間にしわが寄っている。あのしわが消えているときはあるのだろうか。伸ばしてやらないと戻らないかもしれないな、と少年は思った。
「……あとで頭領に名前をもらうんだな。とにかく、ここで人の財布をすったり、物を盗んだりするんじゃあないぞ。カント! 食料の残りを教えてくれ」
ツェーリンは少年の脇を通って、テントの出口でそう叫んだ。するとテントの外からそれに答える声が小さく聞こえた。そしてそのまま、ツェーリンはテントを出て行った。
少年はまた口をぽかんと開けた。何だか嵐のようではないか。一体話はどうまとまったのだろうか。途方にくれて上を見上げると、エリオという巨人が、ツェーリンが去って行ったテントの出入り口を見てニヤニヤ笑っていた。
「……おいら、どうなったの?」
巨人を見上げて尋ねると、エリオはまた少年に合わせて膝を折り、大きな顔を近づけて少年の頭に手を置いた。そのまま髪をくしゃくしゃにされて、少年は自分が子犬にでもなったような気分になった。
「ん? とにかくな、ツェーリンが言ったように、ここで盗みはするな。そんで頭領に名前をもらえ」
エリオはニヤニヤ顔のまま、不意に少年の体を持ち上げてテントの奥へストンと下ろした。エリオのような大きな男にとっては、痩せっぽちの少年などたいした荷物ではないらしい。
エリオに下ろされた場所はテントの中心だった。顔を上げると、先ほどまで奥にいてよく見えなかった人物が今度はよく見えるようになった。
やはりその人はこのテントの中でひとりだけ椅子に座っていた。その脇には、きわどいところまでスリットの入った服を着た、綺麗な女性が微笑んでいた。目が合うと女性は少年に向かって赤い唇で笑ってみせた。少年は顔が一気に熱くなり、慌てて女性から視線を逸らした。丁度下の方へ視線が向くと、女性と反対側には大きな犬が悠々と体を伸ばして横たわっていた。とても珍しい毛色の犬だった。空と同じ色をしている。犬は少年にはなんの興味も湧かないらしく、前足に顎を乗せて目を閉じていた。
そして少年はまた目の前で足を組んで座っている男に目を向けた。その男はツェーリンやエリオより若く、エリオや脇に立っている女性と違って、真っ黒な髪をしていた。服も黒系で統一されていて、街の大人が少年を脅すために説教の種として登場させた悪魔の姿に似ていた。
「カシラって、あんた?」
少年はとりあえずそう尋ねた。すると黒い男が答えるより早く、男の足元に横たわっていた犬が素早く立ち上がって、少年に向かって鋭い牙をむき出しにした。
「餓鬼、ここに来たからには口の利き方に気をつけろ。マスターに無礼をしたらただでは済まさんぞ」
少年は思わずキョロキョロと首をめぐらせた。黒い男は口を開いていなかったし、それは隣の女性も同じだ。そして背後にいるエリオの声は先ほどから聞いていたので、今の声は別の人の声だと分かった。しかしテントには黒い男と綺麗な女性、そして少年とエリオしかいなかった。すると今の声は目の前の獣から発せられたとしか考えられない。
「すげぇ……、犬が喋った」
少年は素直に感激してそう漏らした。しかし、少年の言葉に目の前の犬が顔を歪めたのが分かった。
「犬ではない!」
どうやら怒らせてしまったようだ。少年は犬が向かってくると思って立ち上がった。犬も少年が逃げ出す前に噛み付いてやろうとしたのだろうが、すぐに静かな声が間に入った。
「フライナー、よせ」
その声だけで、犬はぐっと少年に対する不満を呑み込んだようだ。そしてその獣は、少年に飛びかかろうとして入れた両前足の力をゆっくりと抜いた。とても渋々といった様子が良く分かる動作だった。しかしそんな獣も、椅子に座った人物の手が伸びて頭を撫でられると、少年のことなど一気に忘れてしまったようだ。主人の手に――多分そうなのだろうと少年は思った――気持ちよさそうに目を細めて、主人の手が離れると、空色の獣はまた大人しく主人の足元に身を横たえた。
少年も逃げようとして身構えた体の緊張を解いた。そして立ったまま、椅子に座っている獣の主人を正面から見据えた。少年と目が合うと、獣の主人は小さく微笑んだ。それは一瞬で少年を惹きつける、言えようもない魅力を秘めた笑みだった。
「俺はザード。一応ここの頭領だ。これからしばらく、お前はここで俺や他の連中と一緒に暮らすのだ。また飢え死にしそうになるよりはましな生活ができる」
そう決め付けられても、反抗する気など起きなかった。それどころか、何故か胸がドキドキする。あの街を離れて、新しい生活へと飛び込む予感が少年の胸を高鳴らせた。しかし少年は決して愚かではなかったし、単純な楽観主義者でもなかった。
「盗みもしないで、生活なんかできるのかい?」
おいらみたいな子供に、とつい生意気な言葉が口を付いて出た。咄嗟にしまった、と小さく舌を出す。どうしても皮肉な性格が表に出てしまう。この癖で痛い目にあったことは多々あるというのに、学習しないものだ。しかし少しくらいひねた見方をしなければ、今まで生きていることはできなかった。自分の性質を見極め、半ば諦めて少年は上目遣いに正面に座っている男の顔を覗き込んだ。生意気な言いように怒って強張っているかと思われた男の顔は、しかし微かに苦笑に歪められただけだった。何だ、拍子抜けだと少年は思う。頭領なんて、いかにも恐ろしそうな感じだと思ったのに。
「お前には色々教えなければいけないようだな。……そうだ、お前の名前はノウルにしよう。嫌なら他の名前を考えるが、どうする?」
ノウル、ノウルか。と少年は口の中で舌を転がした。悪くない。何より誰から名前をもらうことが、少年を悪くないという気分にさせた。
「いいよ。くそ餓鬼でなければ何だって」
口では生意気にそう言ってみせたが、本当は飛び上がって歌を歌ってもいいくらいの気分だった。とにかく自分はまだ生きている。名前まで与えられて、これからもしばらくは生きられそうじゃあないか。
「そうか。ではノウル、まずお前は体を洗った方が良いな。エリオ、カントとツェーリンのところへ行って、ノウルに服を与えてから、川に入れて来い」
川に入って来い、ではなくて入れて来いなのか、と思って少年はエリオを見上げた。するとエリオも渋い顔をして少年を見やる。何でこれ以上餓鬼の面倒を見なければならないのか、とその顔が言っていた。
「また俺にツェーリンの説教を聞いて来いって言ってんのか? 頭領、勘弁してくれ」
「仕方がないだろう。ノウルはお前が拾ってきたんだ。面倒を見られないのならまた捨ててこい……とは言わないが、ツェーリンの言うことは正論だ」
別に一人でも平気だけど、と少年は声を上げかけたがその時偶然目を合わせた色気のある視線に動揺して、口を挟むことができなかった。
「いいじゃないの、エリオ。ツェーリンに怒られることなんて珍しいことでもないんだもの。もう慣れたでしょう?」
「何度も怒られてみろよ、ソニア。あいつの説教語録はまとめてみる価値あるぜ」
そんなに何度も怒られているなら、エリオという男は自分と同じだと少年は思った。結構仲良くやっていけるかもしれない、そんな考えに至ることは滅多にないことだった。
「しゃあない、覚悟決めて行くか……。来い、ノウル」
「うん」
巨人のように大きな背を追いかけて、少年は思った。ここは居心地が良さそうだ、と。それはノウルという名前をもらった少年にとっては、これまで生きてきた中で最上級の褒め言葉だった。